アルコールと健康

慶事、弔事、忘年会、新年会、歓迎会、送別会そして懇親会と様々な場面にアルコールは付物であり、飲酒は文化の一つという地位を獲得しています。そのような時だけではなく日常でも、特に悪い事とは思われずに普通にアルコールは飲まれています。また、2000年前の中国の漢の時代に書かれた「食貸誌」には「酒は百薬の長」とあり、ヒポクラテスも「ワインは最もおいしい薬、最も楽しい食品、したがって最も価値のある飲料である」と述べるなど、健康に有益であることも言われてきました。百寿者のなかにも、日常的に酒類を嗜んでいる人達もいます。確かにアルコールは善玉コレステロールを増やす作用があり動脈硬化の予防になるかも知れませんし、ワインに含まれるポリフェノールは抗酸化作用があります。また、脳の機能を抑制するので心をリラックスさせる効果もあります。しかしそれはあくまでも「適正飲酒をしていれば」の条件が付くのです。現在、厚生労働省が進めている10万人を対象とした研究によると、全く飲まない人達よりも2日に1合(日本酒に換算)程 度飲む人達のほうが総死亡も癌による死亡もリスクが低くなっています。
しかし毎日2合程度になると飲まない人達よりも死亡リスクが高くなってしまいます。また、脳卒中や自殺では1日3合以上飲む人達で急にリスクが高くなっています。そのようなことからも、適正飲酒とは「1日2合まで、週に2日は休刊日を」といえるかと思います。それでは適正飲酒を守らないで長年飲んでいるとどうなるでしょう。
肝臓の障害がまず思い浮かぶでしょうが、毎日清酒5合を20年間飲み続けると
肝硬変になるリスクが13倍にもなるのです。慢性の食道炎や胃炎そして慢性膵炎もアルコールに関連した怖い病気です。そしてさらに怖いのが発癌です。最近の信頼のおける研究から、肝臓だけではなく口腔、咽頭、喉頭、食道、乳房でも飲酒が直接発癌のリスクを上げる事は確実であると考えられています。アルコールの粘膜への直接作用のほかに、アルコールが体内で変化したアセトアルデヒドに発癌性があるのです。発がん物質であるアセトアルデヒドは分解酵素の働きでさらに変化しますが、この酵素の働きが弱い人達が日本人では
50%ぐらいいます。そのような人達はもともとアルコールに弱いのですが、それを無理して飲んでいると一層発癌の危険が増してしまいます。最後にアルコールはニコチンと同様に依存性があることを忘れてはいけません。アルコール依存症の人は220万人いるといわれていますが、無意識に酒を探すようになったら注意が必要です。酒の文化を享受するのはいいでしょうが、健康の為にしっかり考えたのみ方をしましょう。少し飲んだほうが死亡と癌のリスクが少しだけ低いからといって、これまで飲んでこなかった方はそのまま飲まないほうがいいのは勿論のことです。

                                   (竹下敏光)

2022年04月01日